明治学院大学情報科学融合領域センター

2024.08.08 亀田 達也教授(情報数理学部)の論文が Nature Communicationsに掲載されました

「コラボレーションと、参加・離脱オプションとの意外な関係」

共同研究や起業、ソフトウェア開発など、複数の人々が集まって協働すること(以下、コラボ)は、一人だけで物事に取り組むよりも大きなシナジーを生む可能性を秘めています。しかし、グループでは協働により得られた成果が等しく共有されるため、各人はコストを負担せず他人の努力に「タダ乗り」するという潜在的な誘因を孕みます。

これまでの研究は、コラボにおける個人とグループの誘因の対立を、メンバーが固定したグループ内での「公共財の供給問題」としてモデル化してきました。しかし、現実の多くのコラボでは、グループは固定されておらず、一人だけで解決する選択肢(個人オプション)もある中で、自主的に集まった人たちによってグループが新しく作られます。例えば、自主的な研究プロジェクトへの参加は、各研究者の自由意思に任されます。

本研究では、コラボレーションを参加・離脱(個人オプション)の選択問題としてモデル化し、そのことがコラボの成功率にどう影響するかを検討しました(図A)。簡単な意思決定モデルによる分析と行動実験の結果、グループへの参加が強制ではなく個人オプションがあることで、コラボの成功率が高まることが分かりました。具体的には、個人オプションがあると、他人の貢献に悲観的な人はそもそもグループに参加しないという自己選択の力学がまず起こります。さらに、その力学を予期して初めから他人の貢献について楽観的になる人々が現れます。この二つのメカニズムにより、グループ内では楽観的な期待を持つ人の比率が高まり、「他人が貢献するなら自分も貢献する」という人の備えている「条件付き協力」の力学がいっそう働きやすくなるのです。

さらに、個人オプションの存在がタダ乗り問題の解決を妨げるとしていた近年の他の研究と、本研究の知見を統合することに取り組みました。個人オプションの存在がコラボを助けるか、妨げるかは、グループの境界(メンバーシップ)の柔軟さが重要であることが分かりました。グループが固定していて離脱・参加が事実上不可能な場合には(図B)、個人オプションを選ぶ人の存在はグループに貢献する人数の減少に直結し、コラボの成功率を下げます。一方で、個人オプションを選ぶ人がいてもその後にグループを自主的に形成できる場合には(図A)、互いへの楽観という正の影響の方が強くなります。

コラボの成立条件に関する統一的な理解は、企業やイノヴェーションなど現実の場面でより多くのコラボを可能にする施策を立案するうえで重要な鍵となります。

図. コラボレーションと個人オプションの模式図

【A】グループの境界がオープンで加わるかどうか自由に選択できる(個人オプションがある)場合、コラボレーションは自主的に集まった人たちだけで行われます。本研究が想定する状況です。【B】グループの境界が閉じている場合、コラボレーションに参加せず個人オプションを選ぶ人は、コラボレーションの成功をより難しくします。

掲載情報

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:An outside individual option increases optimism and facilitates collaboration when groups form flexibly
著者:Ryutaro Mori, Nobuyuki Hanaki, Tatsuya Kameda
DOI:10.1038/s41467-024-49779-9
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-024-49779-9

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